第1日 〜2007.7.25(水)〜

熊野市駅→池原

夜行高速バスで熊野市駅前に到着
熊野市駅前に到着した高速バス  大宮と南紀勝浦を結んでいる夜行高速バスに、池袋駅から乗車して熊野市駅前に到着した。学生が夏休みに入った期間とは行っても、火曜の夜発だったからか半分以下の乗車率で、後ろの席に乗客はおらず思いっきりリクライニングさせても遠慮はいらず、ゆったり一夜を過ごすことができた。
 ただの高速バスと思っていたのだが、『至福の長距離バス・自由自在』(講談社α新書・加藤佳一著)を読んで、この路線に使用されているバスが、南紀勝浦線を走るために全高を10cm低くした特注車だということを知った。
 今日乗ってきたバスが、まさにその車両。1999年製の富士重工7Sというボディの特注車。導入時は西武バスの所属だったが、大宮の西武観光バスという会社に3台が移り、南紀勝浦線で活躍しているのだという。
 熊野市駅で降りた人はけっこう多かった。時刻はまだ7時半前。8時になって駅のソバ屋さんが開店。朝定食があり、温かいご飯を食べることができた。サイフォンで煎れたコーヒーもおいしく、筏下りに向けてお腹の準備はできた。
1.熊野市駅9:10→10:13おくとろ公園(北山村)800円 和歌山200さ・254 三菱
熊野市駅前の北山村バス 熊野市駅のバス停  熊野市駅前には、たくさんのバス停ポールが立っている。三重交通、熊野古道シャトル伊勢路号、熊野市・広域バス、そして和歌山県の北山村バスのポールだ。
 やがて駅前に北山村からのバスが到着すると、地元の方や大きな荷物を持った観光客が次々と降りてきた。もっと利用者が少ないのかと思っていたので、盛況なのはバスファンとしてもうれしいかぎりだ。
 おくとろ公園に着いてから、乗船受付までの時間が短いので、駅の公衆トイレでハーフパンツにスポーツサンダルという、筏下り対応の服装に着替えておいた。とにかく、お尻まで濡れるので濡れてもよい格好をしていかないとダメとのこと。
 こんな服装でバスに乗るのだから、勘違いされても困る。運転士さんに、今日の筏下りに乗る旨を伝えてバスに乗った。
 まずは三重県と和歌山県の県境を目指す。県道34号線を行くのだが、車1台がやっとの狭隘路も所々にある。山の中を走っていくと、突然小さな集落が現れたりする。県境の北山川をせき止めた七色ダムのダムサイトが国道になっている。そこを通って和歌山県北山村に入った。
 その先のトンネルがあまりにも狭い。元々はダムの管理用道路だったそうで、行き違いなど考慮されていないのだ。そんな、話し好きの運転士さんの話を聞きながら3分ほど遅れておくとろ公園に到着した。
 筏下り1便の受付は10:20まで。バスを降りて、急いで観光センターの乗船受付へ向かった。
七色ダムを走る
2.おくとろ公園10:40→10:50オトノリ(北山村観光センター)無料(筏下り利用者専用) 和歌山22ゆ・136 三菱
筏下り1・2号用 筏専用バス  受付の脇にボードがあり、筏下りは1便、2便とも満席との表示が出ている。受付で予約票を見せて残金4000円を払うと、名簿と照合し「2号筏になります」と言われて2号とスタンプの押された乗船券を渡された。
 待合室にはたくさんの人が、ほとんどの人がハーフパンツにビーチサンダルといった格好で待っている。それでも中には、スラックスにサンダルというお父さんもいる。果たして大丈夫なのだろうか。
 外に出ると、バスが2台停まっていた。1台のバスには『筏専用バス 1・2号筏』もう1台には『筏専用バス 3号筏』とある。どうやら、今日は筏が3台出るようだ。
 10時半を回って、バスへの乗車案内がある。前のバスは筏2台分の人が乗るから、補助席まで使って満席。帰りに濡れたまま乗車するからか、座席はモケットではなくビニールレザーになっていた。
 10:40におくとろ公園を発車。公園の前だけは広かった国道169号線は、すぐにバス1台がやっとの細道になってしまった。川の流れに沿って、カーブが連続する。そのたびに、満員の乗客の体が右に左に揺れる。
 乗っていた時間は10分ほど。何でもない狭い国道でバスが停まり「着きました」の声で、ようやくここが乗船場だと気づいた。バスを降りると、北山川へ向かって所々階段になった下り坂が続いていた。
筏下り3号用
3.オトノリ11:10→12:20小松(北山村観光センター)6000円 2号筏
筏下りの乗船券
オトノリの乗船場 小松の下船場  降りていくと、川に3台の筏が停まっているのが見えた。下まで降りると、指定された筏ごとに1列に並ぶ。乗船場の注意があり、1号の人から順に乗船する。
 いよいよ2号の乗船。3号筏を通って2号筏に行くのだが、乗り込んだ瞬間筏がぐぐっと沈み、足が濡れる。本当に丸太が浮いているだけなんだと実感する。
 筏は7両連結。列車風に言えば、1・2号車は制御車、3〜6号車が客車で7号車が荷物車だ。1人の人はほとんどいないようで、3人グループの女性と一緒に4号車に誘導される。
 台風4号の影響で13〜17日は運休だったとのこと。まだ緑色に濁っている北山川に、いよいよ出発だ。そして、すぐにオトノリという急流がある。ダムもなく、北山川が木材の運搬に使われていた頃、あまりにも危ないので長男は乗せるな、弟に運ばせろと言われたことからオトノリといわれるようになったという説もあるとか。
 ここですっかりお尻までビショビショになった。最初に濡れてしまえば、もう気にしたってしょうがない。ちなみに、乗船券やトップページの記念撮影をされたのが、このオトノリ。
 流れが緩やかなところでは、イスに座ってのんびりと川の流れに乗っていく。なんたって、動力のない筏。その日の流れや風によって、運行時間が違うのだそうだ。瀬が近づくと「立ってくださ〜い」と船頭さんから声がかかる。
 今日は1時間10分ほどで、小松に到着する。筏はここで連結を解いて道路まで吊り上げ、再びトラックでオトノリへ戻すのだそうだ。
筏に乗船中
筏に乗船中
船頭さんは岩を押して筏を川の中央へ 流れが緩やかなところは筏に座って  オトノリを過ぎてしばらく行くと、流れが緩やかなところにはいる。1台の筏に船頭(筏師)さんが3人乗っている。その中の1人から「ここからしばらくは、縁に腰掛けて足を川に入れていいですよ」と声がかかる。
 そんなことして大丈夫なのと思いながら、せっかくだからと足を入れてみる。水は冷たく、暑い日差しの中とても気持ちよい。(きたない足をお見せしてスミマセン)
 イスに座っていた女性グループに「気持ちいいですよ」と声をかけると、それじゃやってみようかなと足を入れる。やはり、冷たくて気持ちよいと言って写真を撮りあっている。
 行程半ばで船頭さんが回ってきて、1人ずつ北山村名産の「じゃばら」を使った缶ジュースを配っていく。ユズに似た柑橘類で、なかなかおいしい。
 船頭さんのうち1人が舵を扱い、他の2人が竿で水中や川岸の岩を押して、筏の航路を調整している。そのうち、また声がかかる。「今日は向かい風で筏がなかなか進まないので、イスに座ってできるだけ低い姿勢でお願いします。」
 やはり自然の力だけで進む筏。乗っている人間も、それなりに工夫しないといけないのだと実感する。
途中でじゃばらジュースが配られる
4.小松12:30→12:45おくとろ公園(北山村観光センター)無料(筏下り利用者専用) 和歌山22ゆ・136 三菱
小松の筏専用バス  階段を上っていくと小さな駐車場があり、そこに筏専用バスが停まっていた。来たときと同じ、1・2号筏用に乗り込む。
 まだお尻まで濡れているが、ビニールレザーなので気にせずそのまま座っていく。このバスが、次は2便の乗客用になるのだろうから、2便の人は濡れたシートに座らなくちゃいけないのかなと考えると、ちょっと気の毒な気もするが。
 少し走ると、国道に行き当たる。どうやら、終点の小松は国道から脇に入ったところにあったようだ。右折して、またあの狭い国道169号線を走っていく。
 行きと同様カーブが続き、そのたびに体が右に左に揺れる。5分ほど走ると、行きに降りたところを通り過ぎた。エンジンを積んだバスなら5分のところを、自然に任せた筏で1時間以上かけて下ったのかと思うと、昔の木材運搬というのはすごい大変だったのだなと感じてしまった。
 やがて道が広くなると、右手に観光センターが見えてきた。センターの前で降りて、これで第1便の全行程終了。乗船前は6000円の乗船料をちょっと高いかなと思ったが、これだけ手間がかかる貴重な体験ができ楽しめるなら安いくらいと、納得したのだった。
おくとろ温泉入浴
おくとろ温泉 観光センター  観光センターのコインロッカーから荷物を出して、同じ敷地に建つおくとろ温泉へと向かう。着替えを兼ねた、温泉で暖まってこよう。
 入浴料は500円。同じ事を考える人は多いようで、筏下りから帰ってきた人で温泉は賑わっていた。露天風呂もあり、ゆっくり時間を過ごしてしまった。
 さて食事をしようと、隣の食堂へ行くと昼の営業は14時までとのこと。もう13時半近い。もう、オーダーストップかなとお伺いを立てると「大丈夫ですよ、さあどうぞ」とのこと。
 鉄板焼肉定食1260円也を注文すれば、小さなコンロが運ばれ、自分で焼いて食べるのだという。ご飯と味噌汁は、中央のテーブルから自由によそって、好きなだけ食べてくださいとのこと。この値段で、これだけの量と質。かなり感激です。
 時間いっぱいまでゆっくり食事をして、食堂を後にする。川沿いに遊歩道があるようなので、行ってみるが最近ほとんど立ち入った人がいないようで、川沿いに降りる階段はあるが、その下は草が伸び放題になっていた。
 川沿いまで降りなくても、遊歩道のようになったところもあり、小さな小川や池が作ってありベンチもある。ベンチに座って池を眺めると、カエルが水面から目だけ出してこちらを見ているかと思ったら、急に泳ぎ出す。目まで真っ赤な赤トンボ飛んできて、池の脇の草にとまったりする。
 バスはまだ1時間以上ないし、再び荷物をコインロッカーに預けて付近を散策することにした。スポーツ施設の管理事務所の前には、日本で唯一の飛び地の村と書かれた看板なども立っていた。
筏師の石像
上瀞橋(和歌山・三重県境)
三重県側 和歌山県側  テニスコートとキャンプ場の先に、北山川にかかる上瀞橋という県境の橋があるという。時間もあるし、その橋を渡って三重県に再び足を記してこよう。
 テニスコートの脇を曲がると、意外と狭い道だ。その先にあったのは、なんと吊り橋。全体の重量を軽くするためか、なんと道に当たる部分は金属製の金網なのだ。あの、道路の側溝などに使うような、下がよく見える橋なのだ。
 これはなかなかスリルがある。ちなみに、左上の写真が渡った三重県側から見たもの。右側が和歌山県側から見たもの。
 三重県側に渡ってみたものの、山道が続いているだけで周囲に人家はまったくなかった。これでは、長居は無用と和歌山県側に引き返そうと、数m橋を進んだところで、向かい側から軽自動車が走ってきた。橋は狭く、歩行者がいては軽自動車もぎりぎりだ。それに、そんなに橋の端に立ちたくない。あわてて三重県側に引き返し、車をやり過ごす。
路面は金網です
5.おくとろ公園15:18→15:35七色(北山村)200円 和歌山200さ・254 三菱
車庫からやってきた北山村バス おくとろ公園バス停  再び観光センターに戻って、売店をのぞいてみる。じゃばらの生ジュースを、紙コップに入れて売っている。1杯買って飲んで、それからじゃばらシャーベットというのも1つ買ってみる。
 さて、ベンチに座って食べよう。まだ時間はあるかなと時計を見ると、バスの時刻まであと3分ではないか。いけない、うっかり乗り遅れるところだった。すぐに表のバス停に移動する。
 ところが、バスは時間になっても現れず、けっきょく3分遅れでやってきた。発車すると、国道ではなく1本山側の細道を走っていく。もしかすると、これが本当のバス通りで、行きはここから目の前の終点まで乗る人はいないだろうからと、国道を走ってきたのかもしれない。
 集落を抜けると再び国道に戻り、バスは今朝通った道を戻っていく。今度は、北山村の一番東の集落、七色まで乗っていく。そこで1時間半ほど待つと、奈良県の下北山村へ行くバスが出る。
 かつては、熊野市から国道309号線、169号線と走り、北山村を通らず三重・奈良県境を越えて下北山村へ行く奈良交通の路線バスが走っていた。2006年9月30日限りで三重県内が廃止され、熊野市方面への公共交通機関がなくなってしまった。
 そこで、10月1日から下北山村が、和歌山県北山村の七色から、不動トンネルという新しい峠越えのトンネル経由で下北山村の池原とを結ぶ村バスを走らせたのだ。
 七色バス停は、待合小屋があった。そこに座って、観光センターで買ってきたじゃばらシャーベットを食べたり、川の風景を眺めたりしながら、のんびりと1時間半を過ごした。
観光センターで買ったじゃばらシャーベット
6.七色17:10→17:48池原・スポーツセンター(下北山村)無料 奈良200さ・162 トヨタ
発車時刻まで待機する村バス 七色バス停  七色バス停には、三重交通と北山村バスの時刻表はあったけれども、下北山村の時刻表はなかった。知らないと乗れないバス路線のようだ。
 熊野市駅〜七色間は三重交通または北山村バスを利用して、下北山村バスに接続するようになっている。だから、池原→七色は午前中2便、七色→池原は午後2便とかならず片道は回送になるような運行になっている。
 16:30頃、白いワゴン車が七色←→池原と書かれたシートを貼ってやってきた。まだ、国道の空き地に停まっているから、乗せてはくれないのだろう。先ほどの北山村バスが熊野市からやってくると、下北山村バスのワゴン車もバス停に移動してドアを開けた。
 乗り継いだの3人。そこに自分も乗り込む。一応「今日、池原のスポーツセンターに宿泊予約をしているのですが、このバスでいいのですよね」と確認して乗り込む。
 バスは和歌山・奈良県境を、新しい不動トンネルで一気に抜けていく。県道に出ると、右折して奈良交通のバスが1日1往復だけ来ている下桑原に向かう。大里トンネルを抜けると、再び北山川が現れる。川を遡った大小井というところまで行く。この先のトンネルを抜ければ池原なのだが、ここでUターン。再び来た道を戻って、今度は山の上にある村役場や明神池を通っていく。つづら折りの狭い坂道をどこまでも下る。遙か下の方には池原の街が見えている。池原バス停で降りるつもりだったのだが、バスはそこでは停まらずスポーツセンターの正面まで行って「ここですよ」と降ろしてくれた。
下北山村バス

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